の市域の向うには、広い郊外都市《プアンリュウ》がある。その向うには市郡。……その向うには仏蘭西の全土!
竜太郎は、朝から晩まで、錯乱したように巴里中を駆け廻る。博物館、劇場、喫茶店、映画館、縁日《フォアール》……。人が集りそうなところへはどこへでも出かけて行く。もしや、そこであの娘に不意に出逢うことがあるかと思って。
二人の鼬鼠の持ち主のところへも、もちろん、出かけて行った。オデオン座の女優のほうは、まるで似ても似つかぬかます[#「かます」に傍点]のように痩せた娘だった。高等内侍《クウルチザンヌ》のほうはいつも笑っているような、仮面《マスク》のようなふしぎな顔をした女だった。……
竜太郎の衣嚢の中の手帳には、グリュナアルの「顧客名簿《フイシエ・クリアンテール》」から写して来た三十二人の住所と氏名がある。鼬鼠を買った「外国人の部」である。そのうちの十七人は巴里に住んでいた。
あの次の朝から、竜太郎は、一人ずつ克明に訪問して歩いた。どれもみな「あの夜の少女」ではなかった。あとには、ただ一人だけ残っている。
マラコウイッチ伯爵夫人 ド・ラ・クール街二二六(二十区)
もし、それも
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