未婚の婦人は二人。……ガイタンヌ・ド・グウマンヴィル嬢《さん》、スュジイ・リセット嬢。……最初のほうは「|ある職業《クウルチザンヌ》」で、リセット嬢のほうは、オデオン座の女優です。一年以前からさる劇作家と同棲していられる筈です」
「すると、巴里市内ではないようです。地方のほうをどうぞ」
「未婚の婦人は二人。……ジャンヌ・バレスキ嬢、マルセイユ市メエラン街。……ミッシュリーヌ・ド・サンジャン嬢、サン・ラファエル町……」
(サン・ラファエル!)
クンケルは名簿箱の上にかがみ込みながら、
「では、外国の部をやります」
竜太郎は、大きな声で叫んだ。
「もう、お探し下さらなくとも結構です。たしかに、サン・ラファエルのミッシュリーヌというのが、それです」
クンケルは頭をふって、
「ミッシュリーヌ嬢のほうは、私が知っていますが、ブロンドではありません。鳶色《プリユンタ》です」
と、いって、何を思いついたのか、眉に皺をよせて、
「……ひょっとすると……」
「ひょっとすると?」
「……それは、エルマンスではなかったでしょうか」
「それは?」
「エルマンスというのは、私どもの店のマネキンですが、毎
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