こが肝腎なところなんだ。……つまり、それが遠くからの目印になる。……なあ、伝兵衛、足跡を残さずに空から来るものは何んだ」
「鳥でしょう」
源内先生は、大袈裟《おおげさ》に手を拍《う》って、
「偉い!」
伝兵衛は、ぎょっとしたような顔で、
「するてえと……?」
源内先生は、会心のていに頷いて、
「いかにも、その通り。……わしの見込みでは、まず鷹か鷲。……しかし、鷹にはあれほどの臂力《びりょく》はあるまいから、おそらく鷲だろう」
「うへえ、鳥ぐらいのことは、あっしだって考えますが、その鳥が源内櫛にばかり飛びつくというのはどういうわけです。先生、あなたの贔屓筋《ひいきすじ》というところですか」
「下らんことを言うな。それは、そういう風に馴らしてあるからだ。……ものの本によると、中世紀といってな、西洋の戦国時代に、大鷲を戦争に使ったことがある。『戦鷲《タリーグスハビヒト》』といってな、もっぱら敵を悩ますために用いる。しからば、どういう方法を以って馴らすかといえば、敵方の兜《かぶと》やら鎧《よろい》、そういうものの上に置くのでなければ絶対に餌を喰わせん。殊《こと》に、戦争の始まる前頃になる
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