そいつアたいへんだ」
「さあ、来い」
 源内先生、いつになくムキな顔で、怒り肩を前のめりにして、大巾に歩いて行く。
 伝兵衛は、小走りにその後を行きながら、
「するてえと、何か、たしかなお見込みでも」
「さんざん縮尻《しくじ》ったが、今度こそ、大丈夫」
「大丈夫って、どう大丈夫」
「謎が解けた。……迂濶な話だが、大切《だいじ》のことを見逃したばっかりに、無駄骨を折った。……三日の日も八日の日も、それからまた十六日の日も、いずれも、雪晴れのいい天気だった。ところで、その次の日は、どんよりと曇った日ばかり」
「へい、そうでした」
「つまり、三人の娘は、雪晴れの天気のいい日ばかりに殺されている」
「そのくらいのことはあっしもよく知っております」
「黙って聞いていろ、まだ後があるんだ。ところでその三人の娘はみな源内先生創製するところの梁《みね》に銀の覆輪《ふくりん》をした櫛《くし》を挿《さ》している。……なあ伝兵衛、そういう櫛に日の光がクワッと当るとどういうことになると思う」
「まず、ピカリと光りますな」
「その通り、その通り」
「馬鹿にしちゃアいけません」
「馬鹿にするどころの段じゃない。そ
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