持って物干へ出て行こうとするから、転《ころ》んで怪我でもしてはいけないと、さんざんに止めたそうですが、どうしても聴き入れない……」
「なるほど、その辺のところだと思っていた。……なあ、伝兵衛、たぶん、これは誘われたんだな。恐らく六ツ頃に物干へ上っている約束でも誰かと出来ていたのだろう。……お前は、娘の部屋を探してみたか」
「いかにも、そういうことはありそうだ。ちょっと行って掻き探して来ますから、暫くここに立っていてください」
「冗談いっちゃいかん。わしは腹が減ったからもう帰る。後は、お前が勝手にやったらよかろう」
「まるで、十八番《おはこ》だね。何か言やア、帰る帰る……」
たいして変え栄《ば》えもない顔を、生真面目につくって、
「それまで仰言るんならぶちまけますが、今度の三つの件には、先生も相当の関係があるんですぜ。気になさるといけないと思ったから、このことだけは隠していたんだが。三日と八日と、それから今日。……きてれつな死に方をした、この三人の娘たちはみな源内櫛を挿しているんです」
「それはどうも、怪しからん」
「そんなことを言ったってしようがない。これがパッと評判になって、源内櫛
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