》もヘトル役も外科医も、皆、江戸で懇意にしておったので源内先生も招かれてその祝宴に連ることになった。
先年いろいろ世話になった大通詞の吉雄幸左衛門《よしおこうざえもん》や通詞の西善三郎なども招かれて来ていて、参府の折の本草会の話なども出たが、先生の胸中には悲哀の情と佶屈《きっくつ》の思いがあるので、どうしても気が浮立たない。
そのうちに食卓開始の合図の鐘が鳴って、一同の後につづいて食堂に入ると、食卓《ターブル》の上には銀の肉刺《ハーカ》や匙《レーブル》が美しく置かれ、花を盛った瓶をところどころに配置し、麺麭《ブロート》を入れた籠《かご》や牛酪容《ホートルいれ》などが据えられてある。
最初に鼈《すっぽん》の肉羹《スープ》が出、つづいて牛脇腹《うしわきはら》の油揚《コツレツ》、野鴨全焼《ローチ》という工合に次から次に珍味|佳肴《かこう》が運び出される。阿蘭陀《オランダ》料理は源内先生の最も好むところで、このような珍味を食い葡萄酒を飲みながら植物学者ヤコブスの如き高足《こうそく》と談笑することは、この世での最上の愉快とするのだが、思うまいとしても蘇州庵の竹倚《チョイ》で殺されていた利七
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