うに朱房の匕首で背中を後から突かれて死んでおりました」
聞くより、わッと泣き出すかと思いのほか、藤十郎は、眼を繁叩《しばたた》きながら、頷いて、
「案の定、やッぱり利七も。……江戸と長崎で二人が殺《あや》められた以上、どッち道、利七も助かる筈はないと、疾《と》ッくに覚悟を決めておりました。……これが利七でございますか。可愛いや可愛いや、何ンの罪科《つみとが》もないお前までこんな姿になってしもうた。何ンでわたしも殺さんのでッしょう。そうしたら、いっそ楽しかるべきを」
ホロホロと、膝へ涙を落した。
銀燭台の蝋燭の灯
翌日の九月の十二日は諸聖祭《トドロス・サントス》の日で、蘭人は死蘭人《しらんじん》の墓詣《はかまい》りをし、天守堂に集まって礼拝する。
十五日は阿蘭陀八朔《オランダはっさく》の日で、甲必丹《カピタン》は奉行所を訪問して賀詞《がし》を述べ、それから代官、町年寄などの家を廻って歩く。蘭館では饗宴の席を設け、奉行並に奉行所役人、通詞《つうじ》出島乙名《でじまおつな》、その他友人、蘭館出入りの者を招いて盛な酒宴を催してこの日を祝う。
甲必丹《カピタン
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