》ば取っておくんなしゃい、と申しました。細かしく訊ねますと、陳が江戸へ上る日、お種に申すには、あんたから貰うた手紙がわたしの居間の箪笥の中にひと括《くくり》にしてあるけん、盂蘭盆の夜の五ツ半頃、みなが焔口供《えんくぐ》の法会《ほうえ》に唐寺へ行った頃を見澄ましてそっと取りに来い、ということで、お種もかねがねそればッかり気に病んでおッたのでしたけんに、約束通り、唐人《あちゃ》がみな寺へ上った頃出かけて行って陳の居間へ入り、燭台の蝋燭に火を点して見ると、誰もいないと思った闇の中に、陳が朱房のついた匕首を振上げて物凄い顔で突ッ立っております。そるけんで、お種は仰天してバタバタと廊下まで走出したところ、陳が背後《うしろ》から追付いて無残に匕首で突刺したのだと申しました」
源内先生は、口を挟まずに聴いていたが、藤十郎が語りおわると、今迄自分の後《うしろ》に差置いてあった骨箱を藤十郎の膝の前に据え、
「さぞ、お驚きのことと思いますが、秘《ひ》し隠して置くわけにはいきません。利七さんは、大阪でこんなことになッてしまいました。月も日も刻も同じ七月の十五日の夜、庭窪の蘇州庵という破《や》れ唐館で同じよ
前へ
次へ
全45ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング