って暮しておりました。以前のことはわたしと陳とお種の三人の腹におさめ、生涯無かったことにすると約束をいたしました。何もかも済んだこととばっかり思うておりましたところ、思いもかけないこぎゃん酷《むご》たらしい始末になったとでござります。それにしても、お種だけならいざ知らず、科《とが》もゆかりもないお鳥まで殺《あや》めてしまうとは、何たる非道か奴でござりまッしょうか。鬼というてもこうまで残忍《むご》かことはいたしますまい」
「いや、よく解りました。それで、お種さんは一体どんな風にして殺されたのですか」
「最初に見つけましたのは古川町の火の番なのでござりますげな。通詞は江戸へ上ってい、留守居もおらぬ筈の闕所屋敷からチラチラと灯が見えますけん、悪漢《いたろう》でも入込んでいるのかと思うて調べに入りますと、お種が脊中に朱房のついた唐匕首《からあいくち》を突刺されて俯伏せに倒れております。吃驚《びっくり》して乙名《おつな》の宅へ馳付《はせつ》け、乙名からわたしどもへ知らせがありましたけん、動顛して駈付けて見ましたれば、お種はまだ虫の息で、あッちを殺したのは陳ですけんで、是非《しゃッち》、敵《かたき
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