ので、そるけんで陳は悄々《しゅんしゅん》帰って行きました。これで断念《あきらめ》るかと思いのほか、また翌年の夏船でやって来て、ひちくどく纏いつきますけん、お種も腹を立て、云分《いいぶん》つくる気なら勝手にしなされ、あんたごたるひとはもう愛《ええら》しかとも何ンとも思っておりまッせん。もうあッちのとこへ来らッしゃんな、ときッぱりと拒絶《けんつき》いたしました。その秋にお種は利七のところへ輿入《こしい》れいたしましたが、陳はそれでも断念《あきらめ》兼ねたと見えまして、それから足掛三年|唐人屋敷《かんない》に居住《いす》んでおりましたが、さすがに気落《らくたん》して、何時の間にやら音沙汰なしに帰ってしまいました。……それからまた二年おいた一昨年《おととし》の秋、ひょッくりやって参りまして、そン節の詫言《かねごと》をさまざまにいたし、お種さんの婿殿《むこどん》が唐木《からき》の商売《あきない》をしておるというのであッたら、寧波《ニンパオ》の自分の山に仰山《ぎょうさん》唐木があるによって、欲しいだけ元価《もとね》で積出させまッしょう、と申します。利七も甚《え》ッと喜んで以来陳と友達同士のようにな
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