りました。……その中に陳東海がまじッておッたのですけんが、そン節お種を見染め、手紙に添えて指輪《ゆびがね》やらビードロの笄簪《かみさし》やら金入緞子《きんいりどんす》やら南京繻子《なんきんじゅす》やら、さまざまの物ば一生懸命《せいだし》て送ってまいります。申すまでもなく唐人《あちゃ》さんと堅気《きんとう》の娘が会合《さしあ》うことは法度でござりますばッてん、お種も最初《はな》のうちは恐ろしかと思い、わたしに隠して一々送り返していたとですが、お種はちっと早熟者《はやろう》のところへ、向うは美しか唐人《あちゃ》ですけん、何時《いつ》の間にかほだされて悪戯《わるごと》ばするようになりました。間もなく船発《ふなだち》になり陳は寧波《ニンパオ》へ帰ってしまいました。お種のつもりではほんの遊びごとのつもりで、それなり忘れてしもうておったとでござりますばッてんが、陳は翌年の夏船でまたもややって来まして、お種と以前の情交《なか》になろうとさまざまに辛労する体でござりましたが、そン時はもう利七と婚約《やくそく》が出来ておりましたけんに、お種の方では見返る気もなく、素気素法《すげすっぽう》な返事をしました
前へ 次へ
全45ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング