となるほかはない。
源内先生は究理学者だから魔法の妖術のということは絶対に信じない。この世の万事はすべて物理に依って支配されているのであって、それを無視した超自然の事などはあり得よう筈がないが、しかし、何と言っても、不思議は不思議。歴史始まって以来、このような奇異な殺人が行われたことはまだ聞かない。
源内先生は、吐息をついて、
「いや、どうも驚き入ったことです。この世にそんなことが現実に行われようとも思われませんが、しかし、何と言っても事実は事実。わたくしにも少々考えがありますから、どうか一切の次第をお包み隠しなく仰言っていただきとうございます」
「とうてい公然《けんたい》に申されん耻《はず》かしかことですばッてん、今迄は誰にも申したことがござりませんでしたけンが、かくなる上は何事も明瞭《ささくり》と申上げまッしょう。……今から八年前のことでございました。お種が十七の時、お諏訪さまの踊子にいたしましたが、その年の九月、ちょうど夏船が二十九艘一時に着き、桜町の箔屋《はくや》が例年の通り桟敷《さじき》を造って船頭や財副《ざいふく》や客唐人《きゃくとうじん》を招いて神事踊ば見せたのでござ
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