で蔽い隠すようにしながら、
「お見受けするところ、何か非常なご不幸でもあッたようす。お支障《さしつかえ》なければ、どうかこの源内に……」
藤十郎は、片手で涙を抑えながら、
「はいはい、申上ぎょうですが、こぎゃんとこではお話も出来ませんけん、さあ、どうかあッちへ……」
福介を土間の床几《ばんこ》に残して、見世庭《みせにわ》から中戸《なかど》を通って奥座敷へ導かれてゆく。
檐《のき》には尾垂《おだれ》と竹の雨樋が取付けてあり、広い庭に巴旦杏《はたんきょう》やジャボン、仏手柑《ぶしゅかん》などの異木が植えられ、袖垣《そでがき》の傍には茉莉花《まつりか》や薔薇花《いけのはな》などが見事な花を咲かせている。
座に着くと、藤十郎は膝の上へ顔を俯向けながら、
「わたしのような、こぎゃん不幸者は唐《から》天竺《てんじく》まで捜したッてまたとあろうたア思われまッせん。同じ日の同じ刻に江戸と長崎で姉娘と妹娘が唐人《あちゃ》めらの手にかかって殺《あや》められるなンて、そぎゃんことが、この世にあり得ることでッしょうか」
源内先生は、ひえッと息を引いて、
「まあ、ちょッとお待ちください。いま伺っていま
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