積荷、荷揚げ。沖仲仕が渡《わたり》板を渡って筬《おさ》のように船と陸とを往来《ゆきき》する。
 岸には大八車にべか[#「べか」に傍点]車、荷駄《にだ》の馬、負子《おいこ》などが身動きもならぬ程に押合いへし合い、川の岸には山と積上げられた灘の酒、堺の酢、岸和田の新綿、米、糖《ぬか》、藍玉《あいだま》、灘目素麺《なだめそうめん》、阿波蝋燭、干鰯。問屋の帳場が揚荷の帳付《ちょうつけ》。小買人が駆廻る、仲買が声を嗄《か》らす。一方では競売《せり》が始まっていると思うと、こちらでは荷主と問屋が手を〆《し》める。雑然、紛然、見る眼を驚かす殷賑《いんしん》。
 源内先生と福介はこの大混雑にあッちから押されこッちから突かれ、揉みくちゃになりながらようやく通り抜け、利七の常宿になっている津国屋喜藤次《つのくにやきとうじ》の門《かど》へ辿りつく。
 源内先生、さすがに魂消《たまげ》たような顔で、
「福介や、どうもえらい騒ぎだな。ここまで辿りつくのが命がけだった。まご/\すると踏み潰《つぶ》されてしまう」
「初めて見る大阪の繁昌。上方の人は悠長だと聞きましたが、それは真赤な嘘。わたくしは頭を三つばかりも叩か
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