丁半《ちょうはん》に法則がないというのが定説だ。早い話がポアンカレとかブルヌイユなんていうソルボンヌの大数学者が精密な計算を例にひいて証明している。たとえば奇偶《ハザアル》の遊びで、いま出た目とそのあとの目というものはそのたびに永久に新規《ヌウヴォ》だという。これがかれらの学説なんだ。よろしい……ところがわれわれは千回|骸子《さいころ》を振るといつも半々位の割合で奇偶が出ることをしっている。もし目がいつも新しいものなら、もし奇偶に法則がないものなら、なぜ奇数ばかり、あるいは偶数許り千回つづけて出るような出鱈目なことがないのだろう。それは不可能じゃない、と数学者はいうだろう。それア不可能じゃない」といいながら壁に書きつけた公式を指さした。「君はどういう研究を専門にやっているひとなのだね? あの公式の意味がわかるひとなのかね?」
壁の上にはこんな公式があった。
[#天から6字下げ][#公式(fig46070_01.png)入る]
めんどうくさくなったので、判らぬとこたえた。
「この公式はナ、たとえばルウレットの赤《ルージュ》・黒《ノワール》の遊びで、赤だけがつづけて百回出るようなことは
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