いとまらせるためにわざと負けてみせてやろうと思ったのだ。十年も研究したという男がだらしのない負けかたをしてみせたら、いかに無謀な夫婦でもルウレットで一旗あげようなんてことは思い切るだろう。そこでおれは出鱈目な組合せをつくって、どこまでも機械的に押しとおしてやろうとかんがえた。この方法では、絶対に勝つはずがないのだ。『まず黒を頭にした(2―2―1―3)という組合せを何度でもくりかえしてやろう』そこでいきなりはじめたところがご覧の通りの結果になった。(1―1―1―2)というでまかせな組合せで抵抗することにした。するとどうだ。またその通り目が出るじゃないか。負けようとあせればあせるほど勝ちつづけるのだ。おれがなにをいいだすつもりか貴様にはもうわかったろう。勝負にたいして絶対に無関心な人間だけがルウレットを征服出来るということだ。ルウレットと戦うにはシステムだけではなんの役にもたたぬ。それと同時に、勝負にたいする絶対な無関心……純粋に恬淡《てんたん》なところが必要だ。システムを活用できるのはそういう破格な精神の持ち主にかぎるのだ。仮りに賭博にシステムがあるとすればそのような微妙な状態においての
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