《は》り方へまわった。この日ははじめからだいぶ調子がよくて二十分ほどのあいだにかなりの額を勝ちつづけた。彼は頬杖をついて黙然とながめていたが、やがてとつぜん「たわけたことを! そんなのがシステムであってたまるものか」と叱※[#「口+它」、第3水準1−14−88]した。子供面はむきになってノートをふりまわしながら「現にこのの通り[#「このの通り」はママ]勝っているじゃないか」と叫んだ。彼は「勝っていることも事実だが、いずれ負けてしまうのも事実だ。お前の様な馬鹿野郎を納得させるには理窟では駄目なのだナ。いま実例を示してやる。おれが読むからやってみろ」といってモンテ・カルロ新聞をとりあげた。珍妙なことがはじまった。黒へ賭《は》れば赤が出る。奇数へ賭れば偶数が出る。面白いほどいちいち反対の目が出た。それは、涯しない鼬《いたち》ごっこだった。亭主は躍起となって賭《は》りつづけたが、間もなく仮想の全財産を失ってしおしおと賭博台を離れた。
「どうだ。おれは目を三つおきに読んだだけだが、こんなことで屁古《へこ》たれるようなものはシステムでもなんでもありはしないのだ。お前の馬鹿をここでわからしてもらった
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