るかも知れないからねえ。……ま、これは冗談だが。……(いつものねちねちした調子で)ねえ、西貝さん、あんたいったいどう思います。あたしあ、もう久我は帰ってこないと思うんだが……。たぶん、上海あたりへ逃げちまったのさ。……若造のくせにいやに舞台ずれ[#「舞台ずれ」に傍点]がしてやがるから、どうせ只もんじゃないと睨んでいたんだ。……それにね、あたしのことを古田にいいつけたのは久我の野郎なんですぜ。だから……、あたしにあこうも思われるんです。古田はただ張扇を叩いただけで、きょうの修羅場を書下したのは、じつは久我なんじゃないか、ってねえ。……古田を煽てて、あたしを殺……」
西貝はうるさそうに舌打ちをすると、
「はやく殺されちまったらいいじゃないか。(と、つけつけと言って立ちあがると)さっき手紙で呼びよせたのは、こんな用だったのか。……なら、俺あもう帰るぜ」
乾は慌てて、泳ぐような手つきをしながら、
「いや、そうじゃない。こないだ、あんたが言ったものを用達てようと思って、今日用意しておいたんです。……いま出しますから、まあ、もうすこし坐っててくださいよ」
「そうか、それはサンキュウ。……証文は
前へ
次へ
全187ページ中91ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング