り、思想関係者の仕業だったのである。
さすがの絲満事件も、この激発のためにはねだされて、甚だ影のうすい存在になってしまった。夕刊には古田子之作が証拠不充分で今朝釈放された、という記事が、申訳のように十行ばかり載っているだけだった。
乾は眉をよせてしばらく考えこむ。それから、いまいましそうに舌打ちすると、夕刊を小さく折りひしいで、濡れた羽織といっしょに寝台の上に投げだした。
風が強くなって、鎧扉のすきまから雨がふきこんできた。乾は、ガラス窓をしめ、重そうなカーテンをひくと、どっかりと椅子の上へあぐらをかいた。机の抽斗から大きな紙挾みを出す。夥だしい新聞の切抜きのなかから四五枚の写真をえらびだすと、一枚ずつ丁寧に机の上に並べ、頬杖をつきながら一種冷酷な眼つきでそれを睨めまわしはじめた。西貝、古田、久我、葵、〈那覇〉のボーイ……、絲満事件の参考人や容疑者たちの写真である。
いったい、人間がひとりでいるときは、だれでもふだんとすこし人相が変るものだが、いまの乾の顔は、いつもの卑しい眼尻の皺も、人を喰ったような冷笑もなくして、まるで、ちがうひとのようにみえる。いささか崇高にさえ見えるので
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