どんな面をしたって、かまうもんか。……葵君、さ、踊ろう、踊ろう……」
 葵の手をつかみ損ねて、卓の上へのめり、勢いあまって、喰べ荒した皿小鉢といっしょに、乾の膝の上へころがって行った。それで、またひと騒動がはじまった。

 纒いつくように、夫に寄りそって、中野の、二人のアパートまで帰りながら、葵は、歌いだしたいほど幸福だった。
 久我が、いった。
「……今週の終りごろ、僕は公用で台湾まで行かなくてはならない。……(葵の肩を抱きよせながら)もちろん、君もゆく。……竜眼と肉色の蘭の花のなかで、結婚するんだ、ね」
 返事をするかわりに、葵は、眼をつぶって唇をさしだした。木立が影をひく、蒼白い路のうえに立って、二人はながい接吻をした。

 十一時零分、東京駅発、下関行急行。
 二人は大雨のなかを、東京を発っていった……。
 乾が、息せききって駆けつけてきて、大阪寿司に一箱のキャラメルを添えて、二人の窓のなかへ押しこんだ。
「すぐ帰って来ますわ」
 葵が、乾にいった。そして、そのほうへ子供のような、小さな、嫋やかな手をさし出した。
 汽車が出て行った。

     5

 乾が帰ってきた。夏羽織
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