議なご縁でした。……しかしながら、こういう結着になりますなら、不幸、かならずしも不幸ではない。なにとぞ、今後ともご別懇に願いましょう。……殊に、こういうお催しは将来もたびたびやって頂きたいもんで……。では、ひとつ、寛ぎますかな」
と、いうと、上衣をぬいで、ワイシャツの袖をまくりあげた。葵はうつむいて、くっくっ、と笑いだした。笑いがとまらない風だった。
乾は、いっこう意に介せぬようで、うるさく、ピチャ、ピチャと舌鼓をうちながら、
「……諸氏の顔を見るにつけ、思いだされるのは、遺産相続の件ですて。……あたしはね、最近、あれこれと考えあわせて絲満氏さえ殺されなければ、かならず、いくばくかの遺産を手にいれていたろう、と思って、絲満氏の下手人が憎くて憎くてならんのです」
「面白いですね。それはどういうんですか」
と、まじめに、久我が、たずねた。西貝も葵も、フォークを休めて顔をあげた。
「あの遺産相続の通知は、洒落でも冗談でもない。正真正銘のことだったのです。……告知人は、すなわち絲満南風太郎そのひとだったんで。……あの朝、五人を自分の店へ招んで、それぞれ財産を分与するつもりだった。……思う
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