。声の音色なんざ問題じゃない。古田と葵の二人だけが、特別の方法で通知を受けたという点が重大なんだ。……これだけで、二人の間に、なにか共通の劣性因子があることが、充分察しられるじゃないか。うっかり口をすべらしたばっかりに、これがいま、あいつらの弱点になっている。……現にその点で、さかんに共同製作をやってるじゃないか。……片っぽうで、こんな声じゃなかった、といえば、片っぽうじゃ、こんな正直な方はありません、なんて、ぬかす。……おい、那須。……なにしろ、あの女は馬鹿じゃないんだ。しっかりしろよ。よ、名探偵」
「さようそこがトウシローと名探偵のちがいさ。(那須が笑いながら、やりかえす)……葵はね、西貝さん。その、九時って時間には、ちゃンと〈シネラリヤ〉で働いていたんですぜ。しかもひと晩じゅう、葵のそばにへばりついていたのは……、(と、いいながら、となりのモダン・ボーイ風の記者を指して、)なにを隠そう、こいつなんだから話はたしかだ。……こいつはね、一名、ダニ忠といって、女のそばにへばりついたら、雷が鳴ったって離れやしないんだから……それに、あの晩はこいつが……」
 べつの一人が、あとをひきとって
前へ 次へ
全187ページ中48ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング