へんでビールでも……。ついそこに、腹を減らしたわれわれ同業がやってくる、夜明しのおでん屋があるんだ。社会部の若い連中も大勢やってくるから、今朝の事件のニュースがきけますぜ。……どうです、よかったら……」
 久我は高い笑い声を立てながら、
「勿論ですとも。結構です、お伴します」
「すぐそこ。……二丁目の鉄砲屋の裏。……〈柳〉というんだ。……われわれ称して〈連合通信社〉。それはそうと、今日の夕刊を見たかい」
「ええ。……でも、われわれが知っている以上のことは載っていなかったようですね」
「そう。……那須《なす》ってやつがいまやってくるから、そいつにきくと、もうすこしくわしいことがわかるだろう。……さあ、ここだ」
 西貝は久我の腕をとって、小粋な表がまえのおでん屋へつれこんだ。
 卓はほとんどみなふさがっていて、湯気と煙草のけむりがもやもやしているなかで、真っ赤な顔が盛んに飲食《のみく》いしていた。蜻蛉玉の首飾をいくつも腕にかけた中国人が、通りみちに立ちはだかって、女給たちのひと組にしつっこく押売りしている。
 西貝はそれを押しのけるようにして奥まった卓にすすんで行った。押しだされた中国人は
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