野郎だとは思わなかった。それがあたしの不覚さ。……そうと知ったら、仁義などをケッつけずに、サッサと逃《と》ばしてやるんだった。……一生一代の恋をして、いのちにもかえがたい恋人を、ちょっと油断したばっかりに、みすみす死なせてしまったのか。……もう、この世では逢えないのか。……うらめしい、残念だ。(こらえかねたように声をあげて泣きだした。やがてふっと泣きやんだ眼をぬぐうと)おい、くどいようだが、よくやってくれたねえ。……どうして九両三分二朱だ。きっと祟って見せるよ。……あたしのいのちをカセにして、どうでもバラスはずはあるまいと、多寡をくくってるのかも知れないが、今日只今、もう命なんか惜しくない。これから本庁へ駆けこんで、底をさらって申しあげ、お前らの首へ細引を喰いこましてやるからそう思え。……なんだ、妙な面をするな、こんなトボケタ小娘だから、なにも知るまいと思って、さんざ出汁《だし》がらにしゃぶりゃがったが、事件《コト》のありようは元すえまで、なにもかにも知ってるんだぞ。……おい、ひとつ、ここで復習《サラ》って見せようか。……大正七年の六月に、北海道の北の端れで、稚内《わっかない》築港の名
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