…。なんでも那須がとっちめて、ギャングのほうだけは白状させたということですが……。それでね、久我と中村はね、いま大久保の射的場にいるんですぜ。……あたしがこの眼で見たんです」
 男はもういても立ってもいられない風だった。掴みこわしそうに帽子を握りしめて、
「そうときいたら、こうしちゃいられない……いずれ……」
 乾は落ちつきはらって、
「どうするんです。すぐ捕物にかかるんですか。気をおつけなさいよ。二人とも拳銃《ハジキ》を持ってますぜ。下手に生捕にしようなどと思ったら、えらい目に逢うよ。なにしろ、あいつは名人だそうだから……」
 さすがに苦笑して、
「いや有難う。……よく判ってるよ。とにかく、俺あ、急ぐから、お礼はいずれ……」
 その辺の古壺を蹴かえしながら、ひどくあわてたようすで出て行った。乾はチラとそのあとを見送ると、竹箆をとりあげて、ゆっくりと続飯《そくい》を練りはじめた。
 鶴がはいってきた。乾のそばへ並んで掛けると、
「いま出て行ったのは本庁の刑事ね。……なんの用で来たの。……どんな話をしたの」
「べつに大したことじゃない。おれの身元がどうのこうのって……」
 眉をよせて、

前へ 次へ
全187ページ中170ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング