れなかった。肉体にのこっているすこしばかりの痛みのほうが、なにか切実に感じられるのだった。静かな夕暮れだった。
部屋のなかに人のけはいがする。はっとして眼をあけて見ると、戸口に朱砂ハナが立っていた。紫紺の羅《うすもの》に白博多の帯という、ひどく小粋ななりをしていた。戸口に立ったまま葵のほうを眺めていたが、すらすらと寄ってくると、
「おや、どうなすったの。気分でも悪いんですか」
ひとがちがうような優しい声でいいながらじろじろと葵の身体を見まわした。葵はなにもかも見すかされるような気がして、思わず身体を起した。
「なんでもないの。すこし疲れたから……」
「そう。……でも、たいへんな顔色よ。お冷でもあげましょう」
といって、立ってゆくと、そこここと仔細らしく流し元をのぞきこんでから、コップに水を汲んで戻ってきた。葵により添うようにしてかけると、しみじみとした調子で、
「ねえ、葵さん、あんた困っているんでしょう。……あたいによく判るのよ。あんたたちこの二三日なにも喰べていないのね」
どうしてそんなことがわかるのか。葵はおどろいて眼をあげた。ハナは大袈裟なためいきをついて、
「……苦しむ
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