かけの男と久我とが逢っているのを知らしてくれたら、旅費の五十円を貸そうという約束だったので、いそいで知らせに行ったのだった。いま、二人で大久保の射的場のほうへ行った、と告げると、乾はいつものように額をにらむようにしてなにか考えていたが、やがてニヤニヤ笑いながら葵のほうへ近よってきた。その笑いに、なにかぞっとするようないやらしさがあった。いつもとすこしようすがちがっていた。
葵は力のかぎり反抗した。が、突然強く寝台に投げつけられて軽い眩暈《めまい》をおこしているうちに、もう身動きが出来ないようになっていた。乾の身体を押しのけようともがいたが、手が萎えたようになって、てんで力がはいらないのだった。ゆるしてください、それだけは、ゆるしてください、と譫言《うわごと》のように喘えぎつづけるばかりだった。
夕食の仕度がはじまったのだろう。ほうぼうの部屋からしきりに水の流れる音がきこえてきた。葵は眼をとじた。
〈世界中の水を使っても、もう自分の穢れを洗い浄めることはできない……〉
だが、穢れるというのはいったいなんのことだろう。よく考えてみたいと思うのだが、頭のなかが空虚になってなにも考えら
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