ゃならないの?」
「あとでわかるから……穂高はだめ。上海か青島か、なるだけ遠いところへ……」
「穂高? どうしてそんな事を……」
「だから、毎日あとを尾行《つけ》てるって言ってるじゃないの。……(手提のなかから白い分厚な封筒をとりだすと、それを久我のほうへ押しやって)このなかに三百円はいってるんだ。だから、これを……」
 それをおし戻して、
「こんな世話になるわけはない」
「でも、借りるあてがないのでしょう」
「大丈夫……すぐ、手にはいる」
「じゃ、逃げてくれる?」
「逃げるなんてことはしない。少し旅行したくなっただけだ」
「いつ?」
「あす……、はやければ今晩」
 ながい溜息をついて、
「安心したわ。……(そして久我の手を自分の胸へおしつけると)じゃ、どうぞ、いつまでもいつまでもお丈夫でね」
 唇の端をこまかく震わせながら妙な顔をしていたが、突然、久我の指をきつく噛むと、やい、馬鹿やい、といった。
 うるんだような眼をしていた。

「おい!」
 久我が低い声で呼ぶと、草のなかから山瀬が、むっくりと起きあがった。明治製菓の北裏の、この辺で射的場といっている原っぱだった。久我が草の上へ紙
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