はいられなかった。
「僕は金がなくて、昨日からなにも喰べていないんだよ」
鶴は立ちどまって眼をまるくした。急によろめくほど久我の腕をひっぱると、
「喰べましょう。……あたしお金もってる」
「ありがたいが、……君に喰べさせてもらうわけはないさ」
「いや、借がある。……〈シネラリヤ〉にいたとき、チップくれたわね。そのつぎに来たとき、またくれたわね。……それを返すのよ。……さあ、歩けったら、歩かないと、……蹴っとばすから!」
むやみに引っぱって、〈北京〉という中華飯店へつれこんだ。
夕食時にすこし間があるので、店のなかには人影がなく、紫檀の食飯卓《チャプントオ》の上でひっそりと白菊が薫っていた。
鶴はあれこれと食物の世話をやき、たくさん、たくさん食べてちょうだい、と、まるで祷るように、いくども幾度もくりかえすのだった。久我が食べはじめると、こんどは両手で顎を支えながら、その顔を穴のあくほど見つめていた。やがて、藪から棒にいった。
「東京からどこかへ行ってしまってちょうだい。どこでもいいから、早く逃げてちょうだい。お願いだから」
箸をやすめると、すこし顔をひきしめて、
「なぜ逃げなき
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