。なんとかして逃がさなければならないのだ。
 二月まえに葵をつれて神戸へ行ったのは、そこで石原らとおちあって、いっしょに上海へ逃走するつもりだったのである。ところが、久我が神戸へ着く五時間前に、石原が名古屋で捕まり、仲間といっしょに上海へ逃げるつもりだったと自供したので、支那へ行く道は全部閉鎖されてしまった。そのうちに神戸にいることも危険になったので、また東京へ戻ってきた。
 ひところは、警視庁の捜査一課でも全く匙をなげてしまい、絲満事件はこれで永久に迷宮入りするかに見えたが、最近になって情勢はにわかに険悪になってきた。検挙の手はもう葵の襟元にせまっている。一刻も躊躇していられない場合になった。葵を逃がすためには金がいるのだが、まるっきりその方策がつかないのである。
 久我は焦だってきて、夕空を仰いで思わず呻き声をあげた。金を手にいれるためなら、どんな事でもしかねない気持になってきた。
 久我の肩にだれか、そっと手をおいた。
 反射的に衣嚢の拳銃に手をかけて、キッとそのほうへふりむいた。
 日本人ばなれのした、十八九の眼の窪んだ娘が、ラグラン袖のブラウスを秋風にふくらませ、鶴のように片
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