角筈の歩道を下り、ひとすじは三越の横から吉本ショウのほうへ曲って、けっきょく駅のなかへ流れこんでしまう。新宿は憂いあるひとの故郷ではない。このなかへ自分をかくすことも、このなかで悲しみを忘れることも出来ない。新宿は、浅草がするようにひとを抱いたりしない。用をすましたら、さっさと出てゆかなくてはならない。新宿は近代的な|立て場《ルレエ》にすぎないのだ。
久我が二幸の横の食傷新道から出てきた。人波に逆いながら〈高野〉の前までくると、急に足をとめてそこの飾窓を覗きこんだ。明るい照明のなかで、いろいろなたべものが忌々しいほど鮮やかな色して並んでいた。
久我は昨日の昼からなにも喰べていなかった。胃酸が胃壁を喰いはじめている。そのへんが燃えるようだった。いま掌に五十銭銀貨をひとつ握っている。無意識になかへ入って行こうとした。……しかし、葵もやはり昨日から喰べていないのだ。窓から身体をひき剥すと、またのろのろと三丁目のほうへ歩きだした。
乾のところへ穂高ゆきの旅費を借りに行って、いま、けんもほろろに断わられてきたところだった。あんな得体のしれない女と同棲している男に信用貸など出来るものか。別れ
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