えたいことだけ答えてくださればいいのです」
 久我はしばらく黙っていたのち、すこし顔をひきしめて、
「どうか、おたずねください。ご満足のいくようなお答えが出来るかどうか知りませんが」
 那須は不敵なようすで口をきった。
「では、さっそくはじめます。……久我さん、あなたは昭和二年の春、漢口《ハンカオ》で開かれた汎太平洋労働会議に派遣されたまま、今日まで行衛不明になっていた岩船重吉《いわふねじゅうきち》さんでしょう」
 キラリと眼を光らせて、
「そうです。……よく判りましたね」
 淀みのない声だった。那須はあっ気にとられたような顔をした。久我は面白そうに、
「私はもうそろそろ日本に国籍がなくなりかけているのですが、……どうして判りました」
「岩船重吉の古い詩集のなかに、〈自画像〉という詩がありますね。あの中で描写されている風貌は、久我千秋のそれと全然同じです。従って、久我千秋はすなわち岩船重吉なのです」
 久我が、かすかに苦笑した。
「久我さん、あなたはいつ日本へ帰って来たのですか? それまで、支那でなにをしていました? 全国自連に関係がありますか?」
「今年の五月の末です、ちょうど十年ぶ
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