日でもいいわ。たくさんお話ししたいことがありますから、なるたけ早く帰ってちょうだい」
 久我は、そうときまったら明日にも発とう。旅費は、不愉快だが乾に借りてもいいのだから。……そういって、電話を切った。
〈この声は、どこかでいちど聴いたことがある。と、葵はかんがえた。……そうだ、葵に遺産遺産相続の通知をした「あの女」の声だ。神戸のトア・ホテルでもそう思った。あの時は気のせいだろうと打ち消したが、こんどはもう紛れもない。おしだすようなこの錆声、すこし訛のあるず[#「ず」に傍点]の音、舌が縺れるようなこの早口な言いかた……。「あの女」の声だ。……すると、絲満を殺したのは、やはり久我だったのだ。すくなくとも、なにかの関係をもっている。……久我がひとごろし……〉
 こう考えながら、不思議にも葵は悲しくも恐ろしくもなかった。反対に、なにか穏やかな感情のなかにひきいれられてゆくのを感じた。
〈……いとしいひとよ、ひとこと打ちあけてくれたら、どんなに嬉しかったでしょう。そうすれば、あたしが逃げだすとでも思っているのですか。……あたしはごく普通な倫理でしかものを考えることが出来ないけれども、あなただけ
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