は別です。いまでは、あなたがあたしの倫理なのです。あなたがいまの百倍も悪人だっても、あたしの愛情は濃くこそなれ、けっして薄らぎはしないのです。たとえなんであっても、あたしはもうあなたの血族なのだから、あなたから離れることは出来ないのです。……ただ、たったひとつ情けなく思うのは、あたしたちが過去を偽って結びついていることです。告白し合う機会を、二人ながら、永久に失ってしまいました。互いの胸に秘密を抱きながら、これからいく年も幾年も生活してゆかなければならない。悲しいことだが、しかし耐えてゆくより仕様がないのでしょう。……たぶん、これが二人の宿命なのです……〉
 しかし、そうだとすれば、めそめそしてはいられない。とにかく久我を逃さなくては。……乾にきかれてしまったから、上高地はもう駄目。……むかしあたしがいた五島列島の福江島……、あそこがいい。
 葵は電話室を出て、つかつかと乾のそばまで行くと、藪から棒にいった。
「あたしに、すこしお金を貸してくださらない? すこしばかりでいいんですけど……」
 えっ、といって、急に用心深い顔つきをすると、口を尖らして、いった。
「金? あたしに金なんざあ
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