しまった。
葵は電話室の壁に凭れてぼんやりと立っていた。ほかの署などに聞き合わす必要はない。久我は毎朝、警視庁へゆくといって出てゆくのだ。久我は警官ではない。……いままであたしを欺していたのだ。しかし、いったいなんのために。……頭が麻痺したようになって、なにひとつ満足な答を得られなかった。
電話室のカーテンをまくって、乾が首をさしいれた。
「……葵嬢、そんなところでなにしてる。……おや、ひどく蒼い顔をしてるが、気分でも悪いんじゃないのかね。……まあ、こっちへ、こちらへ」
と、いいながら、葵の手をとって長椅子に掛けさせた。ハナは、すっと立ちあがると、ものも言わずに出て行ってしまった。乾はそのほうをチラリと見送ってから、葵のそばへすり寄るようにして、
「ちょっといないたって、そんなにしょげるテはないでしょう。……どうも、濃情極まれりですな。身体に毒ですぜ。……愛妻に気をもませてさ、久我さんもよくないよ。……いったいどこへ行ったんだろう」
そして、へ、へ、へ、と人を喰った笑いかたをした。なにもかにも、すっかり察してしまったらしい口吻だった。
「……ひとの知らない苦労てえのは、だれにも
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