のごろはやめることばかり考えている。……(それから葵の顔を覗きこむようにして)どうだ、葵君、二人で山奥へ行く気はないか。……僕の友人が上高地のずっと上で、たくさん牛を飼っている。やってこい、やってこいと、この間からしきりに言ってよこすんだ。山にこそ直接な自然がある。牛や巒気と交わりながら、しばらく悠々とやってみようじゃないか。いまの君にはなによりそういう生活が必要なんだ」
 優しそうないい廻しのなかに感じられる冷酷さは、なにか、ぎゅっと胸にこたえた。涙にぬれた顔をあげると思いきって久我の手を払いのけた。
「あたしのためなら、どうぞ放っておいてちょうだい。……いらしたかったら、あなたひとりでいらしていいのよ」
 これで、言いたいことをいった、と思った。久我は暗い眼つきをして、葵のそばから身体をひくと、
「……いまは、いろいろに言うまい。……僕は本庁へ行ってくる。……ひとりで、よく考えておいてくれたまえ」
 つづいて、イライラと立ちあがると、投げつけるように、いった。
「考えることなんか、なにもありやしないわ。警視庁だろうが、検事局だろうがあたしはもう恐わくはないんです。……いつでも行って
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