いと言うだけのことなんだからねえ。……一年もたってからなら、やっぱり担がれたんだろうと思うがいいさ。しかるに、約束の時間よりまだ二時間しか経っていないんだ。どういう余儀ない事情で遅刻しているのか知れやしない。それに、小生ひそかに、これは冗談ではない。なにか重大なわけがあるとにらんでいるんだ。……そもそも、われわれ五人をこんな酒場によびだしてなんの利益がある。たいして面白い観物でもありやしないからねえ。……また、ことによれば、あの手紙の差出人は、実はここのおやじ、すなわち、絲満南風太郎君それ自身かも知れないということだ。……あるいは、そうでないかも知れん。……しかし、たぶん、……多分、彼はこれについてなにか知っている。すくなくとも、彼はわれわれを釈然とさせるに足る説明の材料を、持っている筈だと小生は思う」
菜葉服がうなるように言った。
「だから、俺あさっきからそう言ってるじゃねえか。ここのおやじにきけあ話がわかるってヨ。……それをこの先生が、(と、露骨に二十日鼠を指して)おっひゃらかすようなことを言うから、俺あ腹をたてるんだ。(こんどは酒鼻に)どうです、こんなことをしてるより、ひとつ、
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