おやじを起してきいて見ようじゃありませんか(また、二十日鼠にむかって)おめえ、冗談だと思うなら、こんなところにまごまごしていることはなかろう。さっさと帰んなヨ」
「さよう。そろそろ失敬しよう。……なあに、どうせ話はわかってるんだ」
 そのくせ、腰をあげるようすもなかった。
 酒鼻は男《ボーイ》にむかって、
「オイ、若い衆、ハエ太郎君を起して、ここまでつれてきてくれ。……おやじがなにか知ってるなら、われわれに説明する義務があるんだ。……反対に、もしなにも知らないてえなら、せっかくのご休息をお妨げしたについて、われわれ一同は、謝罪のために、大いにここで飲むことにする。……すくなくとも、小生は大いに飲む。……もう正午もすぎてるんだ。とっとと行って起してこい……」
 男《ボーイ》は頭をかきながら、
「大将を起すんですかい。……いやだなア。またがみつかれらア」
「だからヨ、みなであやまってやらあナ」
 すると、酒鼻は大きな声で叫んだ。
「わかったぞ! ……やい、ボーイ。そういう風にぐずつくところを見ると、貴様も同類だな。あの手紙は、酒場の人|集《よ》せにやった仕事だろう……。どうだ、白状しろ」

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