ながらあっしのあけた破風の穴からソロソロと屋根裏へ入って行ったんです」
「よし、じゃ降りて来るところを。……感づかれるといけないから、あまり大勢でないほうがいい。……そんなら、ひょろ松、お前とふたりで」
 籬《まがき》のそばに、まだ花のない萩のひとむらがある。
 アコ長とひょろ松がそのうしろにかがんで黒い口をあけた破風のほうを見あげていると、ほどなくその穴からお節の頭と肩があらわれてきた。右手に鼻紙につつんだ菓子づつみのようなものを持ち、たゆとうように梯子の桁を踏みながらソロソロと下へおりて来る。
 窺うようにあたりを見まわして堀につづく油蔵のほうへ行こうとする。唐突に萩のうしろから立ちあがった顎十郎、ツイと前へまわってお節の前へ立ちはだかり、
「お節さん、いま妙なところから出て来ましたな。いったい、どんな用があって屋根裏なんぞへあがって行ったんです」
 きめつけるように言って、手を伸ばしてお節が持っている紙づつみをツイと取りあげ、紙づつみをひらいて見るとついさっき屋根裏で見た釘づけの蠑※[#「虫+原」、第3水準1−91−60]。
「おう、妙なものですな、いったい、こりゃなんです」
 
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