、半年足らずのうちに一家六人が次々に死ぬというのは只ごとじゃありません」
「医者の診断《みたて》はどうなんです」
「破傷風《はしょうふう》というんですが、そのへんのところがはっきりしない。医者が先に立ってこれはなにかの祟りでしょうと言うんだそうですから、けぶです」
「もうそのくらいにしといてください、あまり気色のいい話じゃねえから」
「あなたはいいが、わたくしのほうは、なにしろすぐ真向いなんだからこれには恐れます。……ざんばら髪の白髪《しらが》の婆が、丑満時に、まっくらな阿波屋の家《や》の棟《むね》を、こう、手を振りながらヒョイヒョイと行ったり来たりするのを見たなんていうものがありまして、女こどもは怯えてしまって、日暮れになると、あなた、厠《かわや》へもひとりで行けない始末なんです。……それはいいが、こうのべつの葬式つづきじゃこっちも附きあいきれない。といって、おなじ町内で知らない顔も出来ないし……」
「いや、ごもっとも。しかし、阿波屋もたいへんだ。これで主人を残して一家が死に絶えてしまったというわけですか」
「死に絶えたも同然。……あとには末娘のお節という十七になるのがひとり残ってい
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