うす。
それはいいが、歩きっぷりがすこぶる妙なので。酔歩|蹣跚《まんさん》といったぐあいに肩から先に前のめりになってヨロヨロと二三歩泳ぎだすかと思うと、とつぜん立ちどまってはげしく大息をつき、両手で胸のあたりを掻きむしるような真似をして、またヒョロヒョロと歩きだす。
「酔ってるのでしょうか」
「うむ、酔ったにしては、妙な歩きっぷりだな」
五人が肩を重ねるようにして眺めていると、数負は急に眼でも見えなくなったように、泉水の端から離家と反対のほうの竹藪のほうへよろけて行き、トバ口の太い孟宗竹にえらい勢いで身体を打ちつけたと思うと、仰むけざまにドッと倒れてそのまま動かなくなってしまった。
「どうしたんだ、ともかく行って見よう」
アコ長を先にして泉水の縁をまわりこんで数負のそばまで駈けて行く。かがみこんで顔を見ると、土気色になってもう命の瀬戸ぎわ。
よほど苦しかったと見えて、顔がグイとひきゆがみ、片眼だけ大きく明けてジッと空を睨んでいる。
「おッ、これはいけねえ」
椿庵は数負の着物の胸もとを寛げ、気ぜわしくあちらこちらと検べていたが、アコ長のほうへ顔をねじむけ、
「ごらんなさい、赤痣
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