」
「総領の甚之助が死んだのはいつだっけな」
「……五月の二十日。……それから二十日ばかりたってから後のことです」
「……で、ありようをすっかり話したのか」
清五郎はあわてて手を振って、
「飛んでもございません。ここに寝るとみな魘されるというが、離家の天井になにかさわりがあるんじゃなかろうかと、ま、そんなふうに、ぼんやり話しただけだったんでございます」
顎十郎は蜘蛛の巣だらけの梁に腰をかけてうっそりと腕組みをしていたが、なにか思いきめたふうで、
「おい、清五郎、ちょっと甚松の死骸を検べて見たいから、神田へ行って大急ぎでひょろ松を呼んで来てくれ」
「へ、そうですか。よろしゅうございます、大駈けで行ってまいります」
油壺
雨があがって、薄雲のあいだで新月が光っている。
油蔵の庇あわいへかがみこんだ五人。
アコ長、とど助、ひょろ松、清五郎。それに御用医者の山崎椿庵《やまざきちんあん》。
アコ長はチラとあたりを見まわしてから、低い声で、
「どうだ、ひょろ松、甚松の死体をなんと見た」
「大熱が出たということや、手足の節々の腫れかたなどを見るに、傷寒《しょうかん》か破傷風。…
前へ
次へ
全28ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング