ご承知の通り、守宮なら灯に集ってくる虫を喰うために檐下や壁を這いまわりますが、蠑※[#「虫+原」、第3水準1−91−60]のほうは、もともと水の中にいる虫。せいぜい川岸の草のあるところぐらいしかあがって来ぬものです」
とど助は眼玉を剥いて、
「すると、どいつかワザワザこんなところへ蠑※[#「虫+原」、第3水準1−91−60]を釘づけしに来たものがあると見えますな」
「まず、そのへんのところ」
と言って、天井板の上にうっすらたまっている埃を指さし、
「ごらんなさい、その証拠はここにあります」
とど助と清五郎が差しつけられた明りの下を見ると、埃の上に足袋はだしの足跡がひとつ残っている。
「大工ともあろう清五郎が足袋はだしなどで屋根裏へ上るなんてえことはない。言うまでもなく、これは別な人間の足跡です」
と言って、清五郎に、
「おれたちが入って来たほかに、天井裏へあがる口があるか」
「常式どおり、広座敷の押しこみの天井板が三枚ばかり浮かしてありますから、這いこむとすればそこなんでございましょう」
「離家にはいま誰が寝起きしているんだ」
「肥前の松浦様のご浪人で新田数負《にったかずえ》と
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