いる五寸釘をさしながら、
「二年以上もここに突き刺さっていたにしては、まるっきり釘の錆び方がちがう。……守宮の身に近いところはともかく、釘の頭のほうはもっと錆が浮いていなければならないはずなのに、見ろ、この通りまっ新《さら》だ」
清五郎は釘に眼をよせて眺めていたが、たまげたような声で、
「なるほど、こりゃあケブだ。三年前の釘がこう新しいはずはありません」
「一年どころか、遅くてせいぜい二十日。ことによればまだ四、五日しかたっていない。……妙なのは釘ばかりじゃない。……清五郎、よくこの虫を見ろ。お前は守宮だといったが、これはこのへんの堀にいる赤腹《あかはら》だ。守宮なら無花果《いちじく》の葉のような手肢《てあし》をしているが、これにはちゃんと指趾《ゆび》がある。ここに釘づけになっているのは守宮でなくて蠑※[#「虫+原」、第3水準1−91−60]《いもり》だ。……そんなに遠くでへっぴり腰をしていないで、近くへ寄ってよく見ろ」
清五郎は首を差しのべておずおずと眺めてから、
「いかにも、こりゃア赤腹」
アコ長はニヤリと笑いながらとど助のほうへ振りかえり、
「とど助さん、少々妙ですな。……
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