るかと思うと、すぐまた死んだように動かなくなってしまう。なにをしているのかと蝋燭あかりを寄せて見ると、両手の中になかば死にかけた囮《おとり》の大きな盲蜘蛛《めくらぐも》をかかえこみ、その匂いを慕ってあつまって来る小蜘蛛を片っぱしからパクッパクッと嚥みこんでいるのだった。
 とど助はゾックリとした顔つきで、
「これはどうも凄まじい。こうして三年も生きていたんですか。いや、これほどまでとは思いまっせんでした。なるほど、この執念なら祟りもしましょう」
 アコ長はなにかに熱中したときの癖で、眉のあいだに深い竪皺をよせながら糸蝋燭の灯で守宮をためつすがめつして眺めていたが、唐突に清五郎のほうへ振りかえると、圧しつけるような低い声で、
「この離家が建上ったのはいつだと言ったかね」
「三年前の五月でございます」
「お前が屋根裏へあがったのはいつだった」
「今年の二月でございます」
「すると、守宮がここへ釘づけになってからちょうど二年と四カ月たっているわけだな」
「さようでございます、そんなかんじょうになります」
「それにしてはチト妙だな」
「なにがでございますか」
 顎十郎は、守宮の胴中を突っ通して
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