人形』とでもついたら、まるで三遊亭円朝の三題噺だ。……ひょろ松、お前、どこかぐあいの悪いところでもあるのじゃないのか」
 ひょろ松は、ひ、ひ、ひ、と泣笑いをして、
「こんどばかりは、あっしも音をあげました。じたい、たわいのねえ筋のくせに、ひどくこんがらがっていやして、あっしにはどうにもあてがつきませんのです。……くわしくおはなししなければおわかりになりますまいが、じつは……」
 と言って、ふたりの顔を見くらべるようにしながら、
「いったい、こういうはなしを、どうおかんがえになります」
 先の月の中ごろから、若い娘がむやみに家出をしてそのまま行きがた知れずになってしまう。いずれも大賈《おおどこ》の箱入娘で、揃いもそろって縹緻よし。町内で小町娘のなんのと言われる際立って美しい娘ばかり。
 八月の十七日には、浅草の材木町《ざいもくちょう》の名主石田郷左衛門の末っ子で、お芳という十七になる美しい娘。
 おなじく二十日には、深川|箱崎町《はこざきちょう》の木綿問屋、桔梗屋《ききょうや》安兵衛の娘のお花、これも十七歳。
 おなじく二十六日には、千住三丁目の揚屋《あげや》、大桝屋《おおますや》仁助の
前へ 次へ
全31ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング