ろもへん+施のつくり」、第3水準1−91−72]《ふき》の厚い三枚重ねに三つ大の紋のついた小浜縮緬の紫の羽織をゾベリときかけ、天鵞絨の鼻緒のすがった雪駄の裏金をチャラめかしながら日本じゅうの役者をひとりで背負って立ったような気障なようすで、三津五郎のうしろからシャナリシャナリとついて行く。
これが三津五郎と瓜ふたつ。おなじ腹から出た双生児でもこうまでは似ていまいと思われるほど。
いつの間に見とったのか肩の癖から足の運びまで、なにもかも三津五郎そっくり。
ひょろ松は、顎十郎の袖を引き、
「えらいやつが飛びだして来ました。三津五郎のあとからもうひとり三津五郎が行きます」
偽の三津五郎のほうは、うしろから来る三人には気がつかないようでシャナシャナ歩いて行ったが、そのうちに霊岸寺の地つづきの冠木門から駈けだして来た娘にニッコリと笑いかけ、いやらしい科《しぐさ》でおいでおいでと手まねきをした。
いまだ十六ぐらいの初々《ういうい》しい美しい娘。羞かしそうに偽の三津五郎のそばへ寄って行って、顔を赧《あか》らめながらモジモジと身体をくねらせている。男は娘の肩へなれなれしく手をかけ、耳に口をあ
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