ではない。明日から当分のあいだ、小鰭の鮨売になって市中を呼び売りして歩いてもらいたいんだ」
「それで、どうしようとおっしゃるので」
「こんどの件はそいつが娘をさそいだす現場をおさえるのでもなければ、取っちめることはもちろん、四人の娘を隠してある場所へさぐりよることも出来ない。そのためには、むこうを油断させ、釣りだして桝落《ますおと》しにかけるほかはないんだが、大袈裟に鮨売の総ざらいなどとやったあとだからむこうも用心してちっとやそっとのことでは気をゆるすまい。……大和屋さん。お前さんが明日から当分のあいだ、噂の通りに小鰭の鮨売になり、わざと眼につくように印物でもくばって歩いてくれりゃア市中にパッと評判が立つから、勢いむこうも気をゆるして引っかかってくるにちがいないと思うんだ。……その悪が一日も早くお手当になれば、お前さんの気持もさっぱりするわけなんだから、災難だとあきらめて、ひとつ手を貸してもらいたい。どんなもんだろう、大和屋」
三津五郎は、一も二もなく、
「貸すも貸さぬもございません。わたくしの手助けでそいつを捕えることが出来るなら、それこそ本望。名を騙《かた》られ、濡衣をきせられて
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