した」
顎十郎は、
「ほほう、そんなことがあるのか。それほどの評判を三人が三人ながら、きょうまで知らなかったというのは間ぬけた話。馬鹿なこともあるもんだ」
と言って、ひょろ松のほうへ振りかえり、
「ひょろ松、じゃア、これは大和屋の仕業か」
「芸はうまいが大和屋は名代の女たらし。このせつ評判がいいので図に乗ってそんなことをやったのではないでしょうか。……しかし、四人までも堅気の娘をおびき出してとじこめておくということになりゃア、これは大事件。名題昇進の披露を前にひかえて、いくら三津五郎でもそんな馬鹿はしなかろうとは思いますが、ことによったらことによる。これからすぐ中村座へ出かけて行って、三津五郎を問いつめてみようじゃありませんか。ひょっとしたら瓢箪から駒が出るかも知れない」
勘定をはらって、すぐ猿若町。ひょろ松がさきに立って楽屋口から頭取の座に入って行くと、ちょうど三番目の『雨夜蓑笠《あまよのみのがさ》』の幕がおりたところで、三津五郎が芸者美代吉の扮装《きつけ》で舞台から帰って来た。
ひょろ松が声をかけると、三津五郎はちょっと顔色を変えたが、悪びれたようすもなく、三人をじぶんの部
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