屋へ案内した。顎十郎は、のほんとした口調で、
「なア大和屋、このせつ江戸でたいへんな評判になっているものがあるんだが、ご存じか」
三津五郎は、嚥みこめぬ顔で、
「はて、なんでございましょう。このせつなら、まず、藪下の菊人形……それから……」
「お前さんの小鰭の鮨売」
「えッ」
「お前さんがこんど新作の所作事を出すについて、その稽古に、小鰭の鮨売になって町をふれ売りして歩いているそうだが、役者というものはなかなかたいへん。そうまでして鮨売の型を取ってじぶんのものにする。こりゃア並みたいていの苦労じゃあるまい。……じつは、今日さるところでお前さんの噂が出て、若いのに熱心なことだと、その座にいたものがひとり残らず口を揃えて褒めていた。このごろは役者のがらが落ち、女子供の人気をとるのに一生懸命で、肝腎の芸のほうはまるっきりお留守。そういう中でじぶんから鮨売になって町をふれて歩くなんてえのはまことに感に堪えたはなし。大へん嬉しく聞いたので、この近くまで来たついでにちょっと顔を見によったというわけ。ほんとうの役者らしい役者は、とうせつ大和屋にとどめをさす。いや天晴々々、当人を前においてこんなこと
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